妖怪は人間の理解を超えたもので、昔から「存在している」と語られてきた。
軽いいたずらをする妖怪もいれば、見た人を呪ったり、ころしてしまったりするものもいる。
人を呪う妖怪は、人の怨霊が姿を変えたものであることが多い。見たら死んでしまう、おそろしく危険な妖怪たちをコッソリのぞいていこう。
朱のように真っ赤な顔―「朱の盆」

荒野やあばら家に棲み着き、出会った人の命を抜き取る妖怪。1677年に書かれた「諸国百物語」には、以下のように書かれている。
人に化けて人を食べる
「会津(今の福島県あたり)に、『朱の盆』という妖怪があらわれた」と噂を聞きつけた若侍が、朱の盆の正体を明らかにしようと夜中に出かけた。
道の途中、若侍は別の侍と出会い、「ここには朱の盆といわれる妖怪が出るそうだが、知っているか」とたずねたところ、「それはこのようなものでござるか?」と侍が振り向いた。
侍の顔は朱のように真っ赤で、髪は針金のよう。額には1本の角が生えており、口は耳まで裂け、するどい牙が見えていた。
若侍はあまりのおそろしさに気絶してしまった。
それから、目が覚めた若侍は帰り道でも一人の女と出会う。その女も振り向くと、赤くおそろしい顔があった。
若侍は家に逃げ帰ったが、100日寝込んだ後に亡くなったという。
木の上から生首―釣瓶落とし

京都、滋賀、岐阜、愛知などに伝わる妖怪。木の上から人に襲い掛かり、人を食べる。
大きな樹木のあるところに棲み着くことから、正体は大木の精霊とも考えられている。
大きな口で人を食べる
ある少年が、町で一番大きなカヤの木の下を通りかかると、木の上からゲラゲラと笑う声が聞こえたそうだ。
誰が笑っているんだろう、と少年が木の上をのぞきこむと、大きな生首が落ちてきた。驚いて尻もちをついた少年を見て、釣瓶落としはさらにゲラゲラと笑ったという。そして大きな口を開けて、少年に噛みついた。少年はそのまま食い殺されてしまった。
その後も「釣瓶落としに通行人が襲われた」という報告が度々あった。
しかし、食べられた人はどこにいくのだろうか。
殺害されて人を恨んだ牛?―「牛鬼」

牛鬼は海岸に棲んでおり、自分を見た人を襲う。姿は牛の頭に、クモのような体。牛鬼は殺害されて成仏できなかった牛が姿を変えたものではないかと考察されている。
牛鬼の性格は、非常に残忍かつ獰猛。するどい牙やツメで何人もの人を殺し、町中に毒をばらまいたという説もある。
実在する牛鬼の遺物
徳島県阿南市の賀島という家に、牛鬼のものと伝えられる頭蓋骨が祠(ほこら)に安置されている。また福島県久留米市の観音寺にも、牛鬼の手とされるミイラがあり、香川県五色台の青峰の根香寺には牛鬼の角というものがある。
どれも牛鬼を退治し、その遺体を持ち帰ったという伝説に由来している。これだけ伝説と実体があるなら、本当に存在していたのかもしれない。
人も動物も丸呑み―「野槌」

目も鼻もなく、口だけで胴体は蛇のように細長い。まるで「柄のない槌」に見えたことから、「野槌」と名付けられた。
山の中を徘徊し、出会ったものをなんでも飲み込む。シカも馬も一飲みだという。もちろん人間も一瞬で食われる。
また強烈な邪気を払っており、食われずに逃げ切ったとしても高熱を発して死ぬ。
口だけの僧侶が「野槌」になる
ある寺にやる気もなく、徳もない僧侶がいた。あまりに口だけの男であったため、僧侶は寺を追い出され、山奥で住むことになる。
そしてどれだけか時間が経って、僧侶は奇妙な蛇に生まれ変わった。蛇といっても目と鼻はなく、口だけである。
話を聞く耳も学ぼうとする目もない。僧侶の以前の人間性がそのままあらわれてしまったような姿だ。
口だけしかなく、やることがないために何もかもを丸呑みにするのか、僧侶がこの世をずっと恨んでいるのか。
子どもの頭部を持ち帰る―笑般若

笑般若は長野県の伝承に記されている妖怪。角と牙を生やし、おそろしい笑みをする。子どもが多い場所にあらわれるという。
江戸時代、今は長野県のあたりの場所で子どもが亡くなり、遺体から頭部だけ見つからないといった事件が起こった。住民は必死に犯人を探したが、見つかることはなく、時間だけが過ぎていった。
そして事件から3日後、亡くなった子どもの母親のもとに笑般若があらわれる。
笑般若は不気味な笑みをしており、その手には子どもの頭部が握られていたそうだ。
なぜ母親のもとにあらわれたのか。笑般若は邪心から鬼に変化した女と考えらており、母親になにかしらの恨みがあったのかもしれない。
月に連れ去る―桂男
「満月の日以外に、月を長いあいだ見つめてはいけない。」
和歌山県の下里村にある言い伝えだ。
満月でない月を長いあいだ見ていると、『桂男』という妖怪があらわれ、寿命が縮まるか、命を落とすという。
桂男は中国から伝わったとされており、江戸時代の奇談集『日本百物語』や伊勢物語にもふれられている。また桂男に関する和歌もあった。
桂男は決して見た目は恐ろしくない。言い伝えでは、絶世の美男子とされている。見るものをトリコにして月に連れ去ってしまう。
人間の怨霊の集団―「七人ミサキ」

七人ミサキは七人の亡霊が集まった妖怪であり、出会った人を無差別に呪い殺す。人が呪いで死ぬと、七人のうちの誰かが成仏し、呪いで死んだ人が七人組に加わる。
そのため七人は常に同じ人数である。
どれだけ人を殺しても、全員が成仏することはできないため、村人全員が死に至ったという説もある。
海難事故や災害で亡くなった人たちが七人ミサキになると考えられており、七人ミサキは海辺にあらわれやすい。夜の海には行かないことをおすすめする。
渋谷七人ミサキ
七人ミサキから発祥したのか、1990年代に渋谷七人ミサキという都市伝説が広まった。
渋谷のあちこちで女子高生7人が続けて亡くなったというものだ。
この女子高生たちは援助交際をしており、妊娠した子どもを中絶した。そのため子どもの怨霊が七人組になり、母親であった女子高生7人を次々と呪い殺していったという。
七人組の母親たちは成仏がしたくて、つぎの誰かを探している。